The story of the twoとあるふたりの物語

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ちょっとしたお祝いごとがあり、数年ぶりに、ふたりだけで旅行へ行くことにした。
「行きたい場所ある? 何処でも良いよ」と
お伺いを立ててみると、
「伊勢神宮に行きたい」と即答され、
躊躇した。
伊勢神宮……三重県か。
なんとなく近場の温泉宿なんかを
イメージしていたから、
その距離感のギャップに面食らった。
だけど「何処でも良い」と
言ってしまった手前引き下がれない。
ひと呼吸おいてから、「良いね、行こう」と
引き攣った笑顔で返し、
旅の行き先が決まった。

海沿いのヴィラを目指して

海沿いのヴィラを目指して海沿いのヴィラを目指して

 宿の予約など、諸々の手配は向こうの役目。いつの間にか、海に面したヴィラタイプの宿に泊まることに決まっていた。対して私の役目は、車の運転。確かにドライブは好きだけど、片道4〜5時間はかかるであろう道中の長さには少々気が滅入る。せっかくなら風景が楽しめるルートを走ろう。そう切り替えて予め調べていた伊勢志摩スカイラインは噂に違わぬ絶景で、海を横目に見下ろしながらのワインディングは、想像以上に気持ちが良かった。

 途中、伊勢湾を一望する展望台に立ち寄ったり、伊勢神宮の鬼門を守ると言われる金剛證寺を参拝したり、牡蠣小屋で焼き牡蠣を堪能したりと、ちょこまか道草を食っていたら、宿に着く頃にはもう日が傾きかけていた。

海沿いのヴィラを目指して
海沿いのヴィラを目指して

茜色の夕日に魅入られる

茜色の夕日に魅入られる茜色の夕日に魅入られる

 運転を終えると、流石にもうクタクタだった。チェックインの手続きは任せて、ロビーの奥のラウンジソファに腰を下ろす。眼の前には大開口のガラス窓。優しく西日が差し込むその幻想的な空間は、早朝からの運転を労ってくれているようだった。暫くその光の中で惚けていると、窓の向こうがベランダ状のウッドデッキになっていることに気が付いた。

 外に出てみると、ますます眩しく輝く夕日が、海と陸が複雑に入り組むリアス式海岸の風景を見事な茜色に染め上げている。呆然と景色を眺めていると、受付を終わらせた妻がすっと横に並んで、真珠のストラップが付いたルームキーをチャラっと鳴らしながらこちらを見ずに呟いた。「良いところだね」。私も前に向き直り、「ね」とだけ返し、また黙って景色を眺めた。

茜色の夕日に魅入られる
茜色の夕日に魅入られる

ここでしか味わえない料理
 ここでしか見られない星空

ここでしか味わえない料理 ここでしか見られない星空ここでしか味わえない料理 ここでしか見られない星空

 地元で獲れた新鮮な海の幸を贅沢に使用した夕食は、それはそれは絶品だった。お品書きはなく、全てお任せの会席料理。伊勢海老と鮑だけは好みの方法で調理してくれるらしいが、それすらお任せでオーダーした。旅はそれなりに行っているけれど、これほどの料理が部屋でいただけるというのも、なかなか珍しいのではないだろうか。

 食事の後は、もちろんお風呂。実は着いて早々に内風呂だけサッと入ったが、備え付けの露天風呂は、食後の楽しみに取っておいた。聞けば、露天風呂の浴槽は信楽焼だとか。焼き物に詳しいわけではないが信楽焼くらいは知っているし、お蔭で贅沢気分が倍増する。見上げれば、満天の星と健気な三日月。海を覗けば、真っ暗な波間にきらきらと月の光が反射している。いい宿を選んでくれたもんだと、改めて妻の審美眼に感心した。

こでしか味わえない料理 ここでしか見られない星空
こでしか味わえない料理 ここでしか見られない星空

ふたりの歴史に残り続ける
忘れられない夜

ふたりの歴史に残り続ける 忘れられない夜ふたりの歴史に残り続ける 忘れられない夜

 風呂上がりに今日1日を思い返していると、せっかくの旅なのにあまり会話をしていないことに気がついた。恐らく普段の生活の方がよっぽど多く喋っている。きっとふたりとも、この非日常感にあてられているんだろう。だからバーに行ってみることにした。酒が入れば、もう少し会話が弾むかもしれない。

 バーの内装はまた一段と洗練された設えで、まさにオーセンティックといった厳かな雰囲気だった。いつも酒を飲むと饒舌になる妻も、今日はやけに大人しい。だけど不機嫌そうではなく、表情は至って穏やかだ。私自身も、この静かで艷やかな空気感をとても心地よく感じている。そうかきっと、この宿に会話は必要ないのかもしれない。この非日常感を共有しているというだけで、心の機微が通じ合っているのかもしれない。そう考えると、この旅が素晴らしく貴重なものに思えてきた。あの夕焼けの景色も、満天の星も、そしてこの夜のひと時も、きっと私たちの心に、ずっと残り続けていくんだろう。そう思えて、ひとり感慨にふけった。

 カウンターで3杯目の而今を飲み干して席を立つ。部屋へ戻る道すがら、妻が腕に手を回してきたが、不思議と私にも照れはなかった。もう少しだけ、このかけがえのない夜の余韻に浸っていたい。ライトアップされた中庭の石庭の前で足を止め、少しだけ立ち話しをしていると、何故かバーにいたときよりも会話が弾んだ。妻もきっと、同じことを感じていたのかもしれない。

ふたりの歴史に残り続ける 忘れられない夜
ふたりの歴史に残り続ける 忘れられない夜
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